泥酔したときと同じ!?睡眠不足が招く業務効率の低下
「睡眠負債」という言葉を聞いたことがないでしょうか。意味としては「睡眠不足が負債のように重なっている状態」となります。負債という言葉がつくように睡眠不足とはマイナスな要因であり、健康状態の悪化のみならず業務効率低下をも引き起こすことがあります。
では実際、睡眠不足になるとどれくらい業務効率が低下してしまうのでしょうか。今回はそうした睡眠不足による業務効率の低下や、睡眠不足で起きる現象などについて紹介していきます。
睡眠不足になると泥酔したときと同じくらいの業務効率低下を招く
睡眠不足になると業務効率はどれくらい低下するのでしょうか。一般的に「泥酔状態で仕事をした時」と同じくらい業務効率が低下するといわれています。
泥酔者と睡眠不足の実験
海外の大学で行われた実験にて、血中アルコール濃度が0.8%になるぐらい酒を飲んだグループと、徹夜したグループをそれぞれ作り、集中力がどれくらいまで低下するのかというテストが行われました。
その結果、泥酔したグループと徹夜をしたグループはそれぞれ同じぐらいの集中力の低下がみられました。仕事に必要なのは集中力だけではありませんが、集中力以外の能力も同じく低下していると考えられるので、泥酔状態の人と同じぐらい効率が低下するといってよいでしょう。
睡眠不足は選択や行動にも変化を与える
睡眠不足で発生するのは業務効率の低下だけではありません。その人が行うべき選択や行動にも変化を与えます。たとえば「普段なら選ばないようなハイリスク・ハイリターンな選択をする」 、「道徳や倫理に背く行動が増える」、「他者への気遣いが少なくなるあるいはなくなる」といったことが挙げられます。
こうした選択や行動の変化は、周囲の人たちにも悪影響を与えてしまうものが少なくありません。そのため睡眠不足は本人だけでなく周囲の人たちの業務効率を低下させる場合もあります。
睡眠不足は維持費が高い
また睡眠不足が続くと、寝るのを防ぐことに脳のリソースを取られてしまうなど、仕事に対して十分な力を発揮できなくなるのが特徴です。人の脳で使用できるリソースには上限があり、仕事の効率を上げたい場合は脳のリソースをいかに仕事に割り振れるかが重要になります。
ところが睡眠不足が起きると、脳のリソースを仕事へ十分に割り振れません。常に眠いという状態になるため「眠らないように我慢する」へとリソースを割かないといけないからです。眠りを耐えることにリソースを割くと、必然的に仕事へのリソースも減ってしまい、仕事におけるパフォーマンスが十分に発揮できなくなります。
睡眠不足による厄介なところは業務効率の低下だけでなく、「睡眠が不足している様子が周囲に分かりにくい」というのもあります。泥酔状態であれば顔が赤かったり体がふらついたりと表面上に変化が現れるのですか、睡眠不足はよほどの深刻な状態でない限りはそうした変化が現れません。表面上の変化があれば周囲が気遣い、自宅に帰らせるなどの対応をしてくれるのですか、 睡眠不足の場合は表面に現れにくいことから気づかれにくく、 深刻な状態になってからようやく発覚したというケースがたびたび見られます。
睡眠不足がおきたときに脳では何が起きる?
「睡眠が不足すると注意力が低下する」 と一般的に言われますが、実は注意力以外にも厄介な現象が発生しています。
プレースキーピング能力の低下
そうした厄介な現象の1つが「プレースキーピング能力の低下」です。プレースキーピングとは、複数の手順を重ねる必要があるタスクを完遂させる能力のことを表します。プレースキーピング能力が低下すると、作業を再開した時などでミスの発生回数が多くなります。睡眠が不足すると注意力が低下するのはよく聞きますが、実はプレースキーピング能力も低下しているのです。
プレースキーピング能力の低下によって作業のミスが増えたり手順を間違えたりすると、作業内容の修正や、やり直しなども頻繁に発生するようになります。そうしたことを何度も繰り返すと業務が滞ってしまい、結果として業務効率の低下などを引き起こすようになります。
マイクロスリープの発生
睡眠不足によって引き起こす厄介な現象の2つ目は「マイクロスリープ」です。マイクロスリープは言葉だけを聞くと「一瞬だけ眠る」と思えますが、正確には「意識が一瞬だけ落ちる」となります。
マイクロスリープが発生しても、本人は寝たという認識は持ちません。一瞬で視覚を含むすべての知覚がなくなるため、本人の意思や精神力の強弱に関係なく発生するからです。
マイクロスリープの発生を最も避けたいのは車の運転中です。一瞬の不注意が原因で事故が起きる車の運転でいきなり意識を失うマイクロスリープが起きると、事故の発生率が劇的に上がるようになります。
マイクロスリープはデスクワークでの仕事にも損失を与えます。簡単な作業であればマイクロスリープが起きても支障はないかもしれません。ですが集中力のいる複雑な作業をしているときにマイクロスリープが発生すると、作業の手順を忘れたり手元が狂ったりするなどのミスが発生するようになり、効率を低下させる場合があります。
そのためマイクロスリープが発生すると仕事内容次第では深刻な作業効率の低下を引き起こすことがあるといってよいでしょう。
業務効率を維持するのに必要な睡眠時間は7時間から8時間
業務効率を維持するために必要な睡眠時間ですが、一般的に7時間から8時間ほど必要とされています。
実験により分かったこと
2003年のペンシルベニア州立大学で睡眠時間に関する実験がおこなわれました。睡眠時間を4時間、6時間、8時間するグループに分けて、反応力や注意力などがどれくらいあるのかを確認するテストが2週間にわたって行われたのです。
8時間睡眠したグループと比較して、4時間ないし6時間睡眠しか睡眠をとらなかったグループは反応力や注意力が低下したという結果が出ました。さらに反応力や注意力のパフォーマンスの差は、日を追うごとにどんどん広がっていったというデータも出ています。
4時間の短い睡眠はともかく6時間というある程度睡眠時間は確保している方でも、注意力や集中力など仕事に関わる能力が低下してするという結果が出ていますので、基本的には7時間ないし8時間前後の睡眠をとったほうがよいです。
少ない睡眠時間でも大丈夫な人はいる
「4時間寝られれば十分に睡眠が取れるから、8時間も取る必要がない」と思う方もいるかもしれません。その人の体質によっては短時間の睡眠であっても十分に休息は取れるというケースもありますので、短時間でも問題ないという人ならば4時間ほどの睡眠でも大丈夫です。
ただし短時間の睡眠で大丈夫という方はそれほど多くありませんので、短時間でも大丈夫な人以外は睡眠時間を7時間ないし8時間ほど確保しておくようにしてください。
業務効率改善のために知っておきたい睡眠の種類
ここで睡眠の種類について紹介しておきましょう。人の睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があります。睡眠をとると最初にノンレム睡眠が発生し、その後レム睡眠が発生、以降はレム睡眠とノンレム睡眠が1時間半から2時間ごとに繰り返し発生します。
レム睡眠とノンレム睡眠
レム睡眠とは、「眼球運動が見られる睡眠」のことです。体は休んでいる状態であるものの脳は活動状態にあり、その日に起きた出来事の整理や、記憶すべきことを保存したり不要なものを削除したりする作用があります。
ノンレム睡眠は逆に「眼球運動が見られない睡眠」のことです。脳が休んでいる状態であるため、脳の中で蓄積していた疲労物質などが取り除かれるようになります。ノンレム睡眠中は脳が休んでいるのに対し、体は活動しているのが特徴です。日中に筋肉や皮膚を損傷した場合は修復しなければいけないのですが、その修復をノンレム睡眠中におこなっています。
大事なのは意外にも…
睡眠の性質を見ると「脳を休ませるノンレム睡眠が、業務効率を上げるのに必要」と思うかもしれません。しかし、仕事のパフォーマンスにおいて重要なのはノンレム睡眠ではなくレム睡眠であったりします。
レム睡眠中は、日中起きた出来事を整理したり重要な内容を保存したりする作用があるため、適切におこなわれれば翌日の仕事がスムーズに行われるからです。 もしも適切にレム睡眠が行われないと、記憶に靄がかかったような感覚に襲われたり重要なことがなかなか思い出せなかったりと、仕事に少なくない影響をあたえてしまう場合があります。
もちろん蓄積した疲労を取り除くノンレム睡眠も業務効率をよくする上では大切ですので、ノンレム睡眠とレム睡眠の両方をしっかりとるようにしましょう。
業務効率向上には寝る時間の確保だけでなく「睡眠の質」も大切
睡眠不足を解消するには、睡眠時間を確保することが有効です。しかし「十分に寝たはずなのに体が疲れている」ということはありませんか?そうしたときは「睡眠の質」が低下していることを疑ってみてください。
生活習慣が睡眠の質を低下させる?
睡眠の質を悪くする要因は色々あるのですが、その1つが「生活習慣」です。もし寝る前にスマートフォンやパソコンを見る習慣がある場合は改めるようにしましょう。
パソコンやスマートフォンから発生するブルーライトには、脳内物質の1つであるメラトニンの分泌を減らす作用があります。メラトニンは睡眠に関連する脳内物質であるため、減ってしまうと睡眠に入ることが難しくなります。少なくとも就寝30分前にはパソコンやスマートフォンを見ないようにしましょう。
明るすぎる部屋はNG
睡眠の質を悪くする要因の2つ目は「明るさ」です。人は古来より日が登ったら活動を開始して、日が沈んだら休息するという生活を営んできました。そのため明るい時は体が活動状態になり、夜は体が休息状態になるというサイクルが出来上がっています。
ですが寝る時の部屋が明るすぎると、体はまだ日中であると勘違いしてしまい休息状態にうまく入れず、睡眠の質の低下を招くことがあります。そのため就寝する時の部屋はできるだけ暗い状態にしておきましょう。
なお「暗いところが苦手」という方の場合は、部屋を無理に暗くする必要はありません。明るすぎる部屋というのは睡眠に支障をきたしますが、多少の明るいぐらいであれば、十分な睡眠の質がとれるようになります。
暑すぎる/寒すぎる部屋は避ける
睡眠の質を悪くする要因3つ目は「温度」です。「寝ている時にエアコンをつけっぱなしにするのは良くない」と言われることもありますが、エアコンをつけずに我慢することもまた、睡眠にとってよいことではありません。 一般的に快適な睡眠が得られる温度は16~27度と言われており、 寝室の温度もそれくらいにするとよいでしょう。
特に夏場は夜であっても部屋の温度が28度以上になることがあります。そうした時は我慢するよりも、エアコンで部屋の温度を下げたほうが、快適な睡眠が得られるようになります。ただし部屋の温度が外の温度と大きく開いてしまうと、部屋を移動した時に不快感があったり電気代が高くなったりしますので、極端な温度調整は避けたほうがよいでしょう。
質の良い睡眠をとることは大切ですか、そのことにこだわりすぎるあまり「良い睡眠をとらなければいけない」と思い込むのもよくありません。そうした思い込みがプレッシャーとなり、かえって睡眠を妨げることがあるからです。
また本人の睡眠度合いと実際の睡眠度合いに乖離が見られるケースも意外と多いです。本人が「十分に眠れていない」と思っていても、実際に脳波を計測すると十分に睡眠が取れていたりします。
そのため睡眠の質にこだわるのは、「十分な時間を確保しているにも関わらず、起きたときの状態が良くない」など違和感があるときだけで大丈夫です。
まとめ
睡眠不足が慢性化すると集中力や注意力が泥酔状態と同じレベルまで低下してしまい、 業務効率が大幅に低下します。さらに睡眠不足は選択や行動にも影響を与えるようになりそのことが周囲には悪影響を与えるなど、自分以外の人にも影響を与えることになりますので注意してください。
睡眠不足を解消する方法としては、カフェインなどを飲む方法もありますが、あくまでも一時しのぎにしかなりません。睡眠不足を解消する方法として最も良いのは寝ることです。
一般的に7時間ないし8時間ほど睡眠時間をとれば睡眠不足を解消するので、意識して睡眠時間を確保しましょう。
睡眠時間を十分確保したにも関わらず眠たいような場合は、睡眠の質を疑ってみてください。寝る前のスマートフォンや部屋の明るさ温度など睡眠の質の低下を招く要因があり、それらを取り除けば睡眠の質も改善するようになります。